幼馴染は、僕に内緒で知らない指を覚えていく ―― 第 3 話「指名という名の」
2026.07.09寝取られメンズエステ 第 3 話

幼馴染は、僕に内緒で知らない指を覚えていく ―― 第 3 話「指名という名の」

この作品はフィクションです。登場人物はすべて成人( 20 歳以上)であり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。 R18 。

――前回のあらすじ――

「田中さん」の正体が、大学のゼミの田中准教授だと気づいてしまった僕は、それを美咲に問い詰めることも、准教授に確かめることもできないまま、日々をやり過ごしていた。美咲は田中さんの指名を受け続け、ある夜、「香菜んちに泊まる」と LINE を残して、連絡を絶った――。

お疲れ様です、芽衣です……。無料で読めるのは、この第 3 話まで。彼女の外泊、こびりついた知らない匂い……。「わたしたち、なんか、変だね」って台詞、書いてて胸が締めつけられました。ここから先は、もっと深いところへ堕ちていきます。

それから、美咲と会える夜が、少しずつ減っていった。

「今日はバイト長引きそう。疲れちゃったから、まっすぐ帰るね」

バイトのある日は、そんな LINE で済まされるようになった。以前は、僕の顔色を窺うように言い訳めいた言葉を付け足していたのに、今はもう、それすらしない。まるで、僕が何も訊かないことに、すっかり甘えているみたいだった。

事実、僕は何も訊かなかった。訊けなかった、と言うほうが正しい。田中さんのことを問い詰めれば、僕が彼女のスマホを盗み見たことも、あの店に客として通っていることも、話さなければならなくなる。だから僕は、何も知らない恋人のふりを、続けるしかなかった。秘密を抱えているのは、美咲だけじゃない。ただ美咲は、僕がそれを知っていることに、まるで気づいていない。彼女は今も、うまく隠せているつもりでいる。

美咲が僕の部屋に泊まりに来た夜、彼女がシャワーを浴びているあいだに、僕はまた、魔が差した。テーブルに伏せられた、彼女のスマホ。ロックの数字は、変わっていなかった。付き合う前から知っている、彼女の誕生日。

香菜とのトーク画面を開く。指が、震えていた。

「今日も田中さん、美咲ちゃんの枠、全部おさえてったってさ 笑 これもう彼女できたようなもんじゃん?」

「ってか美咲、最近ノリノリすぎ。田中さんの相手、前より全然いやがってないよね笑」

彼女できたようなもん。いやがってない。

その二つの文字列が、僕の中の何かを、静かに、けれど決定的に、切り裂いた。

数日後、美咲が言った。

「明日、遅くなるかも」

「バイト、長いの?」

「ううん。そのあと、友達んちに泊まるかもしれない」

友達。その言葉に、僕は反射的に「香菜?」と訊いた。美咲は、一瞬だけ目を逸らして、それから頷いた。

「うん、香菜んち」

嘘だ、と、また分かってしまった。あの日と同じ、目を逸らす癖。二十年見てきたその仕草だけが、皮肉なことに、恋人になった今も、彼女の本音を教えてくれる。

けれど、僕は何も言わなかった。言えなかった。

翌日の夜、美咲からのメッセージは、簡潔だった。

「ごめん、今日泊まる」

それだけだった。理由も、行き先も、書かれていなかった。

翌朝になっても、美咲からの連絡は、なかった。

美咲が外泊した夜、彼女が本当は誰と一緒だったのか。そして、帰ってきた美咲の口から語られた言葉に、僕はどう応えたのか――ここから物語は加速する。

▼ ここから本編( R18) ▼

美咲から連絡が来たのは、翌日の昼過ぎだった。

「昨日はごめん。今日、そっち行ってもいい?」

短いメッセージだった。僕は「いいよ」とだけ返した。それ以外に、何を返せばいいのか分からなかった。

夕方、部屋のインターホンが鳴って、ドアを開けると、美咲が立っていた。少し疲れた顔で、けれど隠しきれない何かを纏って。あの、甘くて重い、店の匂い。それに混じって、今日はもう一つ、僕の知らない匂いがした。煙草でも、香水でもない、大人びた、少し苦い匂い。

「……上がっていい?」

美咲は、僕の顔色を窺うように言った。責められると思っていたのかもしれない。僕は黙って、彼女を部屋に入れた。

狭い部屋の真ん中で、美咲は膝を抱えるように、床に座った。僕はその向かいに腰を下ろしたけれど、何を訊けばいいのか、分からなかった。訊きたいことは、山ほどあった。けれど、そのどれもが、僕自身の秘密を裏返すことになる。「香菜の家じゃないだろう」と言えば、なぜそう思うのかを説明しなければならない。それは、僕が彼女を疑い、盗み見て、店にまで通っている、という告白と同じことだった。

だから、僕はただ、待った。彼女が、自分から口を開くのを。

「昨日ね」

先に沈黙を破ったのは、美咲のほうだった。

「香菜んち、噓なの。ごめん」

その言葉に、僕は一瞬、息を止めた。ようやく、本当のことを話してくれるのか、と。けれど、続いたのは、もう半分の噓だった。

「サークルの子たちと飲んでたら、終電なくなっちゃって。……別の子の家に、泊めてもらったの」

すらすらと、彼女はそう言った。目を、ほんの少しだけ、逸らしながら。二十年見てきた、あの癖。嘘をつくときの、あの目の動き。

嘘だ、とすぐに分かった。サークルでも、友達の家でもない。彼女の体からは、飲み会の匂いなんて、しなかった。あの、甘くて重い店の匂いと、その奥に、僕の知らない男の匂いが、まだ、こびりついていた。

けれど、僕は「そっか」としか言えなかった。

「香菜の家じゃないだろう」とも、「本当は、どこにいたんだ」とも、言えなかった。それを言えば、なぜ僕がそう思うのか――彼女のスマホを盗み見て、あの店に通い、香菜のメッセージを読んでいることまで、全部、裏返さなければならなくなる。

だから僕は、彼女の噓を、噓と知りながら、飲み込んだ。美咲は、僕がそれを信じたと思って、ほんの少しだけ、ほっとした顔をした。うまく、ごまかせた。そう思っている。その安堵の表情こそが、何より僕を抉った。

彼女は今、僕に噓をつくことに、もう、ほとんど痛みを感じていない。昨日、あの男に何をされたのか。それを完璧に隠して、平気な顔で、僕の目の前にいる。二十年隣にいた幼馴染が、僕の知らないところで、僕の知らない誰かに、少しずつ作り変えられている。その気配だけが、匂いになって、彼女の体に、まとわりついていた。

「怒ってる?」

美咲が、上目遣いに訊いた。

「怒って、ないと思う」

「じゃあ、何?」

僕は答えられなかった。怒りでも、悲しみでもない、名前のつけようのない感情が、胸の中で渦を巻いていた。それは、彼女を失いかけている恐怖と――認めたくないことに――その恐怖に体の芯が熱を持ってしまう、あの捻れた感覚だった。

美咲が、膝を崩して、僕のほうへにじり寄った。あの、しなやかな指で、僕の手を取る。その手の動きに、また、僕の知らない滑らかさが混じっていた。誰かに教え込まれ、誰かのために磨かれた動き。

「今日は、泊まっていっていい?」

その声には、贖罪のような響きがあった。昨日の噓を、埋め合わせようとするみたいに。

その夜、僕は美咲を抱いた。

いつもの狭いベッドで、いつもの体を、いつもと違う気持ちで。彼女の指が僕の背中を這うたびに、会ったこともないはずの田中准教授の輪郭が、脳裏にちらついた。この撫で方を、あの人にもしているんだろうか。この、少しだけ焦らすような止め方を、あの人の前でも――。

想像すればするほど、嫉妬で頭が煮えた。それなのに、体は、その嫉妬をそのまま熱に変えていくみたいだった。嫌悪と興奮が、皮膚の下で、分離できないまま混ざり合う。

美咲は、いつもより静かだった。声を殺し、僕にしがみつくようにして、目を閉じていた。その横顔が、時々、ここではないどこかを見ているように見えて、僕は怖くなった。今、この腕の中にいる美咲は、本当に、僕の知っている美咲なんだろうか。それとも、店で誰かに触れているときの、僕の知らない彼女なんだろうか。

「……ねえ」

行為の途中、美咲が、掠れた声で呟いた。

「わたしたち、なんか、変だね」

その一言に、僕は答えられなかった。変なのは、僕のほうだった。恋人の裏切りを想像しながら、その恋人を抱いて、こんなにも昂っている。彼女は、それを知らない。僕がどんな気持ちでここにいるのか、彼女は何も知らないまま、ただ、贖罪のように、僕の腕の中にいる。

その非対称が、たまらなく苦くて、たまらなく甘かった。

果てたあと、美咲は僕の胸に頭を預けて、すぐに、規則的な寝息を立て始めた。まるで、疲れ果てたみたいに。まるで、ここだけが、安全な場所だとでもいうように。

僕は、眠れないまま、天井を見つめていた。彼女の寝息を聞きながら、頭の中では、昨日、この体が、僕の知らない場所で、僕の知らない時間を過ごしていた、その空白を、いくらでも想像することができた。止めようとしても、止まらなかった。

――田中さんは、こんな触り方はしないんだろうか。それとも、もっと、上手いんだろうか。

そんなことを考えている自分の醜さに、うんざりした。うんざりしながら、僕の体は、また、静かに熱を持ち始めていた。

それからの数日も、美咲は、いつもの美咲だった。僕の部屋に来て、他愛のない話をして、笑って、時々泊まっていく。仕事の話は、一切しなかった。田中さんの名前も、お店のことも、彼女の口から出ることは、決してなかった。まるで、そんな世界は、どこにも存在しないみたいに。

けれど、その完璧な"いつもの美咲"の下で、彼女が少しずつ、僕の知らない何かになっていくのを、僕は感じ取っていた。触れるたびに滑らかになっていく指。洗っても抜けなくなっていく、あの匂い。ふとした瞬間に、ここではないどこかを見る、あの目。

一人になった部屋で、僕はスマホを手に取った。そして、指は、勝手に別のサイトを開いていた。

美咲の店の、予約ページ。リカさんの、次の空き枠を。

彼女になら、話せる気がした。誰にも言えない、この醜い熱のことを。そして――美咲が今、どこまで堕とされているのかを、教えてくれる相手も、もう、あの人しか、いなかった。

――美咲は今、どこまで、いっているんだろう。

その問いだけが、眠れない夜の天井に、何度も浮かんでは、消えなかった。

(第 4 話「私が教えたこと」へ続く ―― 第 4 話以降は Ci-en / Fantia にて公開)

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